Home / Interview / 『不変』と『変化』・・・:亀山耕平選手ロングインタビューVol.2

『不変』と『変化』・・・:亀山耕平選手ロングインタビューVol.2

4710

体操競技に触れたことがない人なら誰でも、その神秘的な世界に引き込まれていくだろう。
決して想像ができないその時間の中で何を考え、何を見ているのか――。
その世界に少しだけ入り込んでいく。

そして亀山が語る、自身の変化とは。

いつも通りにやることと
『ねばれ、ねばれ』

――ここからは世界選手権での演技を振り返っていただこうと思います。決勝の演技は満足のいくものでしたか?

亀山 いや、あんまり満足ではないですね。決勝の演技が終わった後に、「あ、ちょっと微妙だったな」って思ったんです。「完璧だ!」っていうのがなかったんですよ。

――手ごたえがなかった。

亀山 はい。とりあえず最後まで行けた、「よっしゃ、俺が思ってることができた。よかった」ってそれだけでした。演技の内容としては70点、80点くらいだろう、っていう見方だったんですよ、僕の中では。

――では演技後のガッツポーズというのは、とりあえず全部できた、という感じなんですね。

亀山 そうですね。やっぱり第一優先は“落ちないこと”だったので。

――なるほど。だから点数を見て驚いていた。

亀山 そうですね。

5671

――演技中のことははっきり覚えているものなのでしょうか。

亀山 演技中のことはあまり覚えていないんですよね。でも覚えてないくらいっていうのは今回が初めてです。ところどころ記憶が飛んでいる感じですね。演技の中に、シュピンデルという技があるのですが、そのあたりの記憶はないですね。

――その原因というのは?

亀山 どうなんですかね、あれは。独特な感覚でした。

――演技をする時は手を上げられてからスイッチが入る感じなのでしょうか。

亀山 いや、演技の2分前くらいから集中してますね。

――あん馬の前にいって、ポメルを持たれてからが長いように感じたのですが、その時には何かを考えているのでしょうか。

亀山 手を上げてからの一連の動きは全部一緒です。いつでも。演技を始めるまでの時間もだいたい同じですね。

――それは一つのパターンというかリズムになっている。

亀山 そうですね。手を上げて右足から入る、手を5回たたいて左足から。勝手にそういう風になっていきましたね。まあでも、自分の中でも決めていった方がいいのかなっていう風には思っていたので。イチローさんが打席に入った時にするポーズもそうですよね。ルーティンなのでこれをやらないと落ち着かないですね。

――一番初めに体を動かし始める時に気持ちの動きというのはあるのでしょうか。

亀山 気持ちの動きはないですね。統一してるっていうか。もうオート化していて「大丈夫、できる」って。怖いから落ちたくなるけど、「いや大丈夫大丈夫、ねばれねばれ」ということをずっと自分に話しかけながらやってますね。

――次の技はこれだ、といったような意識はないんですね。

亀山 はい。流れるようにやっているので。

――なるほど。そこまで反復するんですね。脳で考えているうちはやっぱり駄目なんでしょうね。

亀山 そうだと思いますね。体操に関しては。慣れてくるとあんまり頭で考えないでやるじゃないですか。例えば車の運転のギアチェンジも、考えなくてもできるようになりますよね。それと同じだと思います。ひとくくりになってるんですよね。頭の中で。

6140

――習慣として体に根付いたもので体が勝手に動いてる、といった感じなんですね。では演技直後はどうでしょう。不安はありましたか。

亀山 演技後はもう点数とかどうでもよかったです。

――日の丸をつけて「落ちなかった」という安堵感のような。

亀山 はい。今回の結果というのはよくアスリートの方が言われる「結果は後からついてくる」的な感覚に近いと思います。金メダルはずっと取りたいと思いながら練習していましたけど、この場面ではその思考はいらなかったのかな。

――逆にそれがなかったのがよかったのかもしれないですね。

亀山 そうですね。前の人の演技も見てなかったんですよ。より集中できるように。やっぱり周りはみんなうまいので、「失敗した」とか「あ、あいつうまくいった」っていうのに囚われると自分の演技ができなくなっていくのかなと思ったので。

――演技前にずっと下を向いて目をつぶられているようなシーンも映っていましたけど、それは他からの雑音を入れたくないといった感じだったのでしょうか。

亀山 そうですね。

――具体的な修正点を教えてください。

亀山 例えば降り技の前のシーンですが、足が当たっているんです。足先があん馬の端っことかに触れちゃいけないんですよ。皮の部分に。でもここはガン! って音がするくらい当たっています。ただ審判の人たちが下で見ているということと、観客の歓声であんまりばれてないんですよ、多分。

――音も聞こえないほど。

亀山 おそらく。なので日本だったら15.800は出ないですね。やってみないと分かりませんが。

――音が聞こえないから分からないということもあるんですね。

亀山 そういうこともあるというのは聞きました。

――見ていても足が当たったというのは分かりませんでした。審判の位置によっても見える、見えないはあるんでしょうね。

亀山 そうなんですよ。

――実際に得点を聞いた瞬間、そして、トップになった瞬間はどうでしたか?

亀山 実はあまり実感がなかったんですよ。日本に帰ってきてから、「オレやっぱりチャンピオンになったのかな?」みたいな(笑)。そんな感じでした。

――そうですよね。世界チャンピオンですもんね。本当にお疲れ様でした。今の時期は徐々にオフへ入っていくのでしょうか。

亀山 いや、年末年始は休みなんですけど、来月(12月14、15日)にまた豊田国際があるので、それで今年は終わりですね。まあオフと言われても、また来年の準備をしなきゃいけないので。

――筋トレを含めて体を全く動かさない、という日はあるのでしょうか。

亀山 はい。現在も水曜日と日曜日は基本的には休みなので、そこでは体を動かしません。

――その休みで回復をして、またトレーニングをして、ということを繰り返していくんですね。

亀山 やってもいいんですけどね。でも僕は休むようにしています。

――それは今まで様々なやり方をしてきて、そのやり方が一番合っていた?

亀山 そうですね。体の負担もありますし、それからやっぱり体操と離れる時間というのも大事だと思うので。脳みそをリセットして、今週また頑張ろう、みたいな。まあでも体操から離れてる時でも、好きだからやっぱ頭の中ではずっと考えているんでしょうけどね。基本的には一呼吸おいてまた次からっていう風にしています。

5720

時間が限られているからこそ
間違った努力はできない

――徳洲会に入られて3年目になりますが、一般的に、体操の選手はだいたい30歳あたりで引退を考えるのでしょうか。

亀山 30……まあ36歳の選手もいますし、ちょっとわからないですね、それは。

――そうなるとシーズンとしてはだいたい10回くらいです。その限られた時間に自分に合った練習方法や一番これが結果が出るかなっていう、いろいろなことを試されるわけですよね。そこで失敗すると、1年間を棒に振る可能性も。

亀山 そうですね。だからほんとに間違った努力はできない。特に僕らって社会人でやるとだんだん時間が無くなっていくっていうか、引退までの感覚がだんだん狭くなるからより間違えられないと思うんですよ。その中で間違うことはあると思います。でも、基本的には間違えられない。だからこそそういった方向性をコーチとかと相談しながらやっていきますね。

――でも人に相談してもそれが正解というわけではない。

亀山 そうですね。でもより最高の判断をしていきたいなとは思っています。

――同じことを様々な人に聞いたりすることもある?

亀山 そうですね。まあでも基本的にはコーチ、監督と話し合います。今回は全日本選手権の団体が終わってからそういう機会がありました。来年まで、というか3年後までどういう計画で行くのかっていうような話はしましたね。みんなで知識を出し合って、より正しい方向で進んでいけるように。そして僕が間違えた時に戻してもらえるように。

――監督、コーチを含めてチームなんですね。そういう意味ではオリンピックも経験している米田功さんが監督になられたというのは、とても安心感があるんじゃないですか?

亀山 そうですね、すごくよく考えてくれますし、一緒にやってくれる、っていうのはあります。間違った努力も多かったはずなので。以前はコーチもあんまり頼らず、「自分一人の力でやってやろう」的なところがあったんです。

――そんな時期もあったんですね。

亀山 人の話を聞かないというひねくれた自分が(笑)。

――若くて活きのいいアスリートの人は、そういう時期があると聞きます。ある程度年齢を重ねて、精神的にも成熟してきていろんなものが入ってきたときに、ピースみたいにはまっていくというか。
僕は自転車のロードレースの取材をしていたんですけど、そこでもそういう選手はいますね。「結果として自分が丸くなることでいろんな話を受け入れた時に、ピースがはまる感覚があるよ」っていうことを言われた選手もいます。

亀山 そんな感じかもしれないです。感覚としては。

5818

――人それぞれブレークの瞬間があるんでしょうけど、それは必然なんでしょうね。

亀山 どうなんですかね。ちょっと恥ずかしいですけどね。

――そういう時期もあって当然だと思います。それが選手の個性だと思いますしね。特にロードレースという競技は人と思いっきり競って順位を競う競技なので、そのコーチや監督が言うのは「はい。はい」って聞いてるやつはダメだ、と。「こいつはちょっと問題があるかな」っていうやつが残っていくということはあるそうです。

亀山 そうなんですね。確かにイエスマンじゃダメ、といったこともよく言われることですよね。

――自分を持ちながらも、聞く耳を持つというのは年齢的に成熟していかないとできないことなのだと思います。若いうちにそれができても……。

亀山 そうっすね。確かに。妙に賢いですよね(笑)。最終的に決定するのは自分だけれどもっていう感じですよね。

――自分がリスクを背負うけども、でも人の話もやっぱちょっと聞いとかないと….、っていうバランスの難しさはあるみたいですね。
監督の言うことを聞きすぎたのが駄目だったと言われる選手もいたので…

亀山 不思議ですね。

――不思議ですよ。運命というかめぐり合わせもあるんでしょうね。

亀山 あるかもしれないですね。

――米田監督が今一緒にやっているというのはきっと亀山選手のひとつのめぐり合わせだと思います。

亀山 そうですね。それはほんと良いことだな、とは思いますね。

【次回、最終回】

[Interviewer:Gouji “BJ” Hamakawa TEXT:Chiharu Abe Photo:sohta kitazawa]

About hamabo

GymnasticNewsの編集人&発起人。元々はサイクルロードレースの取材をしていたが、タロケン&chiharuの”体操愛”に感化され体操を見るようになった体操素人。素人ならではの目線を大切に現在"体操"を勉強中。

Check Also

2017高校選抜2位 梶田凪

高校選抜2017個人総合2位、梶田凪にインタビュー

2017年高校選抜松山大会で見 …