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【コラム】貫かれるスタイル〜”魅せる演技”に秘められた植松鉱治の想い〜

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体操競技の大半は失敗だ。
1つの技を成功させるのに何十回、何百回と失敗を重ねる。そしてその練習や失敗がケガや事故につながることもある。植松鉱治はその犠牲者のひとりだ。現在は日本のトップチームであるKONAMIに所属し、その実力だけではなくムードメーカーとしても欠かせない存在。
派手な演技で見る者を魅了し、笑顔で人を惹きつける。そんな植松は多くの“イタミ”を知っている。

2007年仙台大学の3年生。かねてから目指していたオリンピックの出場へ向け照準を合わせていた。北京オリンピック代表選考を兼ねた全日本選手権。予選の5種目は順調だった。大きなミスがなければ予選通過は確実。その最終種目のゆかの演技中、回転しきれず頭から落下。脳震とうをおこした。演技は続けたがフラフラの状態だったため、その一歩一歩が減点対象となり、わずかな差で代表選考から脱落。演技後、救急車で運ばれた。

応援していた私を含めたチームメートは異変には気づいたものの演技を続ける植松を見て、まさか脳震とうをおこしていたとは思わなかった。
あれほど着地が得意な植松がなぜひとつも着地を決めることができないのか・・・・それが不思議だった。
近くで見ていた監督、トレーナーは気づいてたが、植松が演技を続けようとするその姿を、その表情を見て彼を止めることができなかった。

翌年、悔しい思いでテレビ観戦した北京オリンピック。その直後のインカレ(全日本学生選手権)でオリンピック銀メダリストとなった内村航平に競り勝ち、個人総合初優勝を果たした。悔しい思いを払しょくし、ここから4年後へのスタートを切った。卒業後KONAMIへと進み2010年の世界選手権では個人総合8位となるなど、順調にロンドンオリンピックまでの道を進んでいた。そんな2011年4月、練習中に鉄棒の着地の際に右ひざ前十字靭帯断裂。

オリンピックの予選まで残り1年。涙を流していたのは私だった。ただただ悔しかった。

入院していた病院へ行くと手術をした右足はパンパンに腫れていた。笑顔で出迎えてくれた植松を見て、「あきらめたんだ」と感じた。オリンピックへの道は閉ざされたのだ、と。しかし植松から発せられた言葉は
『大丈夫や・・・・』
だった。

『俺が誇れるのは人との出会いや。それはいつも感じている』。
医師から言われたのは『植松が本気で1年後の復帰を目指すのなら、最短で復帰できる治療をする』ということ。その言葉を信じ、気持ちに応えるため、そこからの1年はすべてをかけた。

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言われたことはすべてやり、つらいリハビリを乗り越えた。そしてケガから1年が経った2012年4月の全日本選手権に、植松の姿があった。そこで得意種目である鉄棒で16.100の高得点をたたき出す。1カ月後に行われるNHK杯の鉄棒で再び1番高い得点を出せばオリンピック出場が濃厚となる。が、わずかに及ばず、またしてもあと1歩が届かなかった。悔しさを珍しく表情に出した。それは初めて見る表情だった。

HSK-1104いつもまっすぐに前を向き、目標へ向かって進む強さが植松にはある。疑わず、あきらめずそれを確実に実行する。その強さの根底は、支えてくれる人、応援してくれる人への感謝の気持ちだ。

鉄棒の種目において離れ技はリスクが高く、最近では離れ技が少ない構成にする選手が増えてきている。しかし植松はその流れに、ひとり抗うかのように離れ技を増やしていく。そこにはこんな想いがある。

『見ていて楽しいと思ってもらえるような演技がしたい』

HSK-13382013年、初めてのタイトルを手にした。それが種目別選手権の鉄棒での優勝だ。試合後のインタビューでかみしめるように言った。『やっととれたタイトルなので今後の大会でもずっと1番でいけるように努力していきたい』

味わった悔しさ、”イタミ”が多いからこその魅せる演技、変わらないスタイルだ。
『応援してくれている人がたくさんいるのは演技をしていても分かるので、それにともなうような結果を残せるように頑張っていきたい』。

感謝の気持ちを込め、植松らしく、強くまっすぐに突き進んでいく。

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【Text:Chiharu Abe Photo:Masaya”HANSUKE”Sakamoto,Sohta Kitazawa】

special thanks to Koji Uematsu

About hamabo

GymnasticNewsの編集人&発起人。元々はサイクルロードレースの取材をしていたが、タロケン&chiharuの”体操愛”に感化され体操を見るようになった体操素人。素人ならではの目線を大切に現在”体操”を勉強中。

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