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未知の領域への挑戦

誰もやったことがないことをやりたい――。これが植松鉱治の原動力だった。

9月20日に行われた全日本シニア体操競技選手権大会で、日本人初となる鉄棒の4回連続離れ技を成功させた。「最初の歓声と4回目(の離れ技)を成功させたときの歓声は聞こえたかな。めっちゃ気持ちよかった!」

4回の離れ技、屈伸コバチ、かかえ込みコバチ、コールマン、かかえ込みゲイロード2。この練習を始めたのは7月末だ。緊張感をコントロールするのが苦手だったと話す植松は、試合で自分の力を最大限に発揮できていなかった。そこでスポーツ心理の専門家とともに、“スポーツ心理の勉強をしながら、誰もやったことがないことに挑戦する”というハイレベルな計画をスタートさせた。

植松はそのときの心境をこう話す。「この挑戦自体が面白いし、今から勉強できるっていうのも興味深い。それに自分の能力を理解できて、それを生かすチャンスってなかなかないこと。これは挑戦だと思ってやってみよう、って」

 

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約1カ月半、「このためにすべてを犠牲にと言ったら大げさかもしれないけど、ここだけに集中してきた。練習もそうやし、勉強もそうやし。そこを中心にずっと生活をまわしてたような感じだった」と言う。

本当に未知の領域だった。「それまで遊びではやってみたことはあるけど、これは試合でできる技じゃないよな、ってずっと思っていた」。鉄棒のスペシャリストでさえ、想像できない構成でもあったのだ。

また、KONAMIのチーム戦では必ずメンバー入りしていた植松だからこそ、これは1人では達成できない挑戦でもあった。

離れ技の連続は成功すれば高得点につながるが、失敗のリスクが高い。そのためチーム戦では挑戦すること自体が厳しいのが現実だ。だが、KONAMIのチームスタッフはこの挑戦を快諾。全面的にバックアップしてくれた。この日もチームメンバーではなく、個人として出場。「ほんとやったら今日はチームに入ってないといけなかった。(田中)佑典がケガで出れへんかったし。だけど今回だけはやらせてください、と。ちょっと押し切る部分があった」という。

結果的にチームは優勝したが、2位の徳洲会体操クラブにはわずか0.150と辛勝だった。それだけ、植松の存在はチームにとって大きい。

だが植松が得たものも大きかった。「今までは自分の能力を生かしきれてなかったんだということを再確認できた。やっぱりここまでやってこれたんだから、自分の能力はあるはず。それを最大限に常に生かせる方法っていうのを今日演技してわかったかな」。試合中、自分で緊張感のコントロールをできていたおかげで、「あまり疲れずに試合を運べる感じがした」と振り返る。

自分でも未知の領域だった場所へ足を踏み入れ、自らの体操人生で一番の達成感を得た。

「今日は本当に気持ちよかった」

 

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16.400。自己ハイスコアの得点をたたき出し、会場を沸かせた植松は笑顔で応えた。「今後のこと?う~ん。分かんない」

とにかく今はこの達成感と快挙を成し遂げた充実感に浸っていたい。

 

TEXT : CHIHARU ABE

PHOTO:SHOTA KITAZAWA

About chiharu

駆け出しスポーツライターとして某野球雑誌を中心に活躍中。大学時代に体操競技に携わり、それ以来、”体操愛”に目覚める。独自の人脈で”体操”に関する様々な情報を収集する。

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