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異次元への挑戦:女子跳馬種目別

男女とも跳馬が他の種目と大きく異なるのは、1演技につき1つの技しか行わない点だ。そのため跳馬では技1つ1つにDスコアが付けられており、難度というものは存在しない。

ではその跳馬の技の中で最もDスコアが高い技は何か?

シライ/キムヒフン?いやこの技はD6.0だ。実は今の男子跳馬の技の中では取り立ててDスコアは高くない。

リ・セグァン2?ロペスハーフ?どちらも男子跳馬では最高のD6.4だが、これらは「男女含めて」最高ではない。

実は男女含めてDスコアが最も高い技は女子跳馬のプロドノワ(前転とび前方かかえ込み2回宙返り;D7.0)である(日本時間2016年8月15日時点※)。

男子がやるとローチェとなりD5.6しか得られない。これは男子と女子の身体能力の違いもあるが、女子の跳馬の高さが1.25mなのに対して男子の跳馬はそれより10cm高い1.35mで、手をつく位置が高くなる分、高い跳躍を得られやすいためである。

ちなみに女子跳馬で次にDスコアが高い技は伸身ツカハラとび2回半ひねり(D6.5;男子ではドリッグス=D5.6)であるが、今回のリオ五輪種目別では行われなかった。その次が「ロンダート後ろとびひねり前方伸身宙返り1回半ひねり」でD6.4となり、これは種目別で実施された。D6.3のアマナール(伸身ユルチェンコ2回半ひねり)は数人が実施し女子種目別跳馬ではもはや欠かせない技となっている。日本人選手では試合で見かけたことがないが、村上茉愛(日本体育大学)が狙っているようだ。

さてこの異次元の技プロドノワだが、実は難しすぎて大過失(1.0減点)がない実施が行われることがほとんどない。しかしながらD7.0もあるため、Eスコアが2.0引かれてもD7.0+E8.0で15点台に乗ってしまい、女子跳馬としては悪くない得点になるのだ。

プロドノワで有名なのがインドのディパ・カルマカルである。今回のリオ五輪では尻餅をついたように見えたものの、Eスコアが8.266となりDスコアとの合計が15.266となった。他の技を着実に決めた選手が上位となり惜しくもメダルには届かない4位となったが、プロドノワを実施した直後の会場内は大拍手が鳴りやまず、採点する審判にはプレッシャーとなったことだろう。

カルマカール
2015年アジア選手権で、女子では世界的にも珍しいプロドノワ(前転とび前方かかえ込み2回宙返り;D7.0)に挑戦したディパ・カルマカル(インド)

 

さらに今回はこのプロドノワに挑戦した選手がもう一人いた。そう、あのオクサナ・チュソビチナ(ウズベキスタン)である。日本では朝日生命に所属し、日本人選手のコーチをしながら選手として日本国内の試合にも出場している。

41歳にしてオリンピック出場は7回目。もちろん女子体操選手としてはぶっちぎりの最多オリンピック出場回数でそれだけでも異次元だが、この年齢で種目別跳馬の決勝に進出し、そこでプロドノワに挑戦してくるとは驚異を通り越して我々が理解できる範疇を超えている。

さらにチュソビチナはプロドノワをこなすだけではなく、その技の質にもこだわってきたようだ。カルマカルは大きく脚を開いて回転効率を高めているが、それでもともすれば尻餅をついてしまうくらいのギリギリの実施である。

しかしチュソビチナは脚の開きを最低限に抑えEスコアを高めることも狙ってきた。残念ながら回転の勢いを止め切れず、両足がマットについた後に前転するような失敗になってしまったが、それでもEスコア7.933で合計14.933。大過失したとは思えない点数が出ている。

チュソビチナ
自分の半分以下の年齢の選手とオリンピックで対等に渡り合うチュソビチナの辞書には「限界」という文字はないのか?

 

女子跳馬の異次元技といえば、北朝鮮のホン・ウンジョンが伸身ユルチェンコ3回ひねり(男子ではシライ/キムヒフン)に挑戦してきた。成功すればD6.8となるところだったが、残念ながらひねり不足を取られ2回半ひねり(アマナール;D6.3)と認定され新技成功とはならなかった。しかしながら成功の可能性が十分に期待出来る実施ではあった。

女子跳馬種目別、それは男女を合わせた今の体操界で最もチャレンジングな種目である。

 

※この記事を執筆中に男子跳馬種目別が行われ、イーゴリ・ラディビロフ(ロシア)が前転とび前方かかえ込み3回宙返りを実施し、男子で初めてD7.0の跳躍となった。男子が女子に追いついた珍しい瞬間である。

 

 

TEXT : Masaru “TAROKEN” Maeda

About taroken

GymnasticsNews Radio Showのメインパーソナリティ、ライター。 学生時代に体操の選手の経験あり。体操ファン歴は中学生時代から。 静岡県体操協会男子3種審判資格あり。 ポッドキャスターとしては体操の他、Apple製品、IT関連、鉄道系の番組にも出演中。

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