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くずれた方程式 〜 リオ五輪団体金への道のり 予選編

わたしは宿泊先のホテルでふてくされたようにベッドに身を投げると、気持ちをねじ伏せるようにして眠りについた。起床予定は5時。すでに1時を過ぎていた。

リオ五輪男子団体予選で日本は4位通過というまさかの結果に終わった。

思い返せば予兆はあった。会場での通し練習で内村がゆかで背中から落ちる大過失。跳馬でも着地のミスがあり審判に好印象は残せなかった。山室はあん馬で、田中佑典も得意のはずの平行棒で落下。お世辞にも好調とは言えなかった。

リオ五輪強化合宿ー山室あん馬
リオ五輪強化合宿であん馬の強化を図る山室光史(コナミスポーツ)

 

それでもわたしは楽観視していた。国内の代表選考という厳しい戦いをくぐり抜けてきた4人と、それを率いる内村航平は、オリンピック本番では実力を発揮してくれると思っていたからだ。

 

2014年南寧世界選手権での最終演技。中国の最終兵器ジャン・チェンロンの鉄棒はダイナミックさと大技こそあれ、日本の実施ほどの美しさは見られなかった。誰もが金メダルを確信したが、実際は0.1点差で金メダルを取り損ねた。

それを契機に日本のリオ五輪団体金メダルへの青写真は決まった。団体予選を1位通過することで団体決勝の最終演技者となり、得意の鉄棒で高得点を稼いで中国に逃げ勝つ。これが日本の勝利の方程式だった。
しかしながら、その方程式は予選が進むにつれて徐々に崩れていった。

抽選で第1グループのあん馬からという厳しい演技順となった日本。あん馬スタートも不運だが、第1グループというのも厄介だ。
審判は、試合開始当初の演技には警戒して点数を低めに出す傾向がある。最初から高い点を出してしまうと、後半でそれを上回る演技が出てきた時に、通常では出さないような高得点を出す羽目になるからだ。

それを実際にやってしまったのが広島で行われた2015年アジア体操競技選手権だ。あの時の団体予選、日本のゆかは好調だった。D6.7の加藤凌平が16.000、D7.0の早坂が16.150と16点台を連発していた。
しかしこの得点の出し方だと、白井健三がミスなく演技したら17点近くになってしまう。
案の定、白井はいつも通りの演技をし、審判は16.800を出さざるをえなかった。

NHK杯 白井健三 ゆか
なかなか高得点を出してくれない日本の審判も白井健三(日本体育大学)のゆかには16点台を出さざるを得ない。NHK杯でも16.150が出ていた。

 

さすがに翌日は点数の基準を見直したようで、白井のゆかが16点台前半に収まるように全体的にゆかの点を抑え目にしていたが、一般的に審判はこのような事態も想定して選手の練習にもしっかり目を向け、これくらいの演技ならこれくらいの点を出そうと大まかな基準を頭の中に作っておく。そして試合が進むごとにそれを少しずつ調整していく。
あん馬からスタートした日本団体予選。山室が早々に落下したが、予選は5-4-3制で5人中4人が演技し、上位3人の得点で計算される。そのため1人のミスは許容範囲である。
それよりも気になるのは、2種目目のつり輪が終わった段階で内村を含め誰一人15点台を出せていないことだ。やはり全体的に得点が抑えられている。

跳馬で内村と白井がようやく15点台を出し波に乗るかに思われたが、ここでは時間という敵との戦いが待っている。跳馬は演技時間が短いため、次のローテーションまでの待ち時間が長い。せっかく盛り上がったチームのムードも、動きに切れが出てきた身体も、時間の経過とともに冷えてしまうのだ。

 

4種目目の平行棒。日本としてはここから猛追に出たいところだが、山室が自身の名前がつくヤマムロ(棒下マクーツ;G)で落下してしまう。続く田中佑典も同じ技で同じようにミスを出し、またも日本に悪いムードが漂い出す。

そして問題の鉄棒を迎えた。一番手の加藤凌平は手堅く15点を出すものの、平行棒のミスを引きずってしまったのかスペシャリスト田中佑典がアドラーひねりの後コールマン(F)に行けず、着地でも大きく乱れ14点台に。これで種目別決勝への道も絶たれる。そして内村が最初のはなれ技屈伸コバチ(E)でまさかの落下。ロンドン五輪の魔物が脳裏をかすめる。

内村の屈伸コバチ
国内大会では見たことのない内村の屈伸コバチでの落下では、4年前のロンドン五輪でのコバチの落下を思い出さざるを得ない(写真はNHK杯での内村の屈伸コバチ)

 

その後のインタビューで内村は、疲労で力が入らなかったと語っていたが、見ていた限りではコバチに行く前の「当て」がいつもより強かったように思う。
「当て」とははなれ技で鉄棒の反動を利用するために、その直前の車輪で鉄棒を意図する方向に引っ張る動作を言う。コバチやカッシーナなどの鉄棒を飛び越しながら後方宙返りをするはなれ技では、直前の車輪で倒立を過ぎた直後にこの「当て」を行って鉄棒をしならせ、その反動で宙返りの高さを生み出す。

屈伸コバチは内村が行うはなれ技の中では難度が低いほうで、内村本人も「全力を10としたら3の力でやらなければならない」と常々言っている。しかし見ていた限り4くらいの力で当ててしまった感がある。頭では抑えているつもりでも、身体はオリンピックを意識して力がはいってしまっていたのかもしれない。
4人目の山室は大きなミスはなかったもののカッシーナ(G)を抜く安全策をとり、鉄棒の上位3人の合計点は、予定よりも2点も低い点に終わってしまう。

最終種目のゆかでは全員15点台には乗ったものの、期待の白井健三がリ・ジョンソンの着地で大きく弾かれラインオーバー、その後も着地でミスが出て予定よりも1点近く低い点となってしまった。
わたしは翌朝のニュースで日本が予選4位という結果に終わったことを知り、1位の中国との点差も確認しないまま、リオ五輪男子団体を追いかけるモチベーションをなくしてしまっていた。

 

(決勝編に続く)

 

TEXT : Masaru “TAROKEN” Maeda

About taroken

GymnasticsNews Radio Showのメインパーソナリティ、ライター。
学生時代に体操の選手の経験あり。体操ファン歴は中学生時代から。
静岡県体操協会男子3種審判資格あり。
ポッドキャスターとしては体操の他、Apple製品、IT関連、鉄道系の番組にも出演中。

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