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内村圧勝の陰に潜む危機感と希望

NHK杯は内村航平(リンガーハット)の9連覇で幕を閉じた。体調が万全ではなく、全体的に難度を下げて臨みながらも、ミスのない演技で連覇を果たしたその姿は、まさしく王者だった。2位、白井健三(日体大)との差はわずかに0.350。だが、「小さな点差の中に大きな壁を感じている」という白井の言葉どおり、内村と白井の間には簡単には埋まらない差があるように感じた。また、3位、田中佑典(コナミスポーツ体操競技部)と白井との差が0.750。田中佑がミスのない演技をしていれば、この順位は変わっていたのではないかとも思える。2位以下の選手たちは、1つ1つのミスが命取りとなるが、内村に関しては自身の持つ技を出すことができれば、圧勝できるだろう。

「今のままでは世界では戦えない」と試合後の会見で内村が言った。「リオ(リオデジャネイロオリンピック)のときくらいのレベルの高い演技を目指しています。間違いなくDスコアは上げなければいけないし、Eスコアの部分でもしっかりバランスのとれた演技構成を目指してやっていかなければいけない」。

“間違いなくDスコアは上げなければいけない”内村が、国内最高峰の戦いで優勝を遂げたことに、危機感を覚えなければいけないのではないだろうか。

近くて遠い背中。

白井は確かに、“ゆか、跳馬の選手”という印象を塗り替えた。だが、まだオールラウンダーとして世界で頂点を争える位置にはいないだろう。

オールラウンダーとして実力十分な田中佑が、勝利への欲を見せて挑みながら、ミスを重ねてしまうのが、勝負の厳しさ。

「平行棒が終わった時点で負けているのは当然だろうなと思ったし、そこを気にしていても自分の演技はできないと思っていました。自分の演技ができたからこそ、こういう結果が残せたのかな、と」。実力はもちろんだが、状況に流されず自分の演技に徹する精神力の強さでも、誰よりもトップにいたのが内村だった。

世界選手権は10月だ。白井の成長とともに、2020年の東京オリンピックを目指す選手たちが、いかに内村の背中をとらえるのか、今後も各大会からは目が離せなさそうだ。

NHK杯で9連覇を果たした内村航平。「しんどいスポーツ」と本音を漏らしたが、内村の時代はまだ続きそうだ。

 

 

そんな中、楽しみな選手を見つけた。

リオデジャネイロオリンピックは補欠として現地にも行っていた実力者。その名を知る人は多いだろう。

神本雄也。

今年3月に日体大を卒業し、現在はコナミスポーツ体操競技部に所属している。

全日本選手権個人総合で6位に入り、1班で回ると、NHK杯でも6位という結果を残した。結果だけを見れば内村に迫るにはまだ時間がかかりそうな印象を受ける。

だが、その差は順位以上に少ない。

 

全日本選手権個人総合は4月。環境の変化や体調不良もあり、納得のいく結果ではなかったという。そして、巻き返しを図りたいNHK杯までの1カ月間には、食あたりとぎっくり腰の影響でしっかりとした練習ができたのは3日間程度だった。

「試合に合わせるのが結構得意な方なので、練習できていなくても、ここ一番でっていうのは結構できちゃうんですけど……」と神本。その勝負強さに驚かされた。

だが、こうも続ける「今のレベルでそれができてもしょうがない。もうちょっと上がっていかなきゃいけない」。

トップとの差は感じている。だが、手応えも感じている。

1班でオリンピアンたちと回っても、「そこに常にいなきゃいけないとは思っているので」と特別に意識することはなかった。「これで満足じゃないし、勝っていかなきゃいけないので。もっと自分の体操を突き詰めていきたいなというのは感じますね」。

世界選手権への出場権を得るためには、6月の種目別選手権は落とすことができない。つり輪と平行棒での勝負だが、技を増やして挑むつもりだ。

万全な状態とはほど遠い中、6種目をやりきった神本雄也。巻き返しはこれからだ。

 

 

大きく腫れ上がった右手を見つめて「ちょっとずれたくらいかなと思っていたんですけど、トレーナーさんに聞いたら脱臼していたみたいです。そんな重傷だとは自分では思っていませんでした。アドレナリンも出ていたので」と笑顔を見せた。

第二種目のあん馬の一技目で、右手人さし指を脱臼したのだ。それでも残る四種目をこなし、6位という結果を残した。

「今回は全然悔しくないです」。

ベビーフェースから見え隠れする負けん気の強さ。

まだまだ神本の実力はこんなものじゃない。

見据えるのは2020年。静かに闘志を燃やしている。

リオデジャネイロ五輪では目の前で仲間が金メダルを獲得する姿を見た。その悔しさは、神本をさらに強くするはずだ

 

 

 

Camera:Atsushi Miyachi

Text :CHIHARU ABE

About chiharu

駆け出しスポーツライターとして某野球雑誌を中心に活躍中。大学時代に体操競技に携わり、それ以来、”体操愛”に目覚める。独自の人脈で”体操”に関する様々な情報を収集する。

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