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なぜ宮地秀享は内村航平に勝てなかったのか?

2017年6月25日に高崎アリーナで行われた全日本種目別選手権の男子決勝は、近年稀にみる白熱した戦いとなった。

 

全日本種目別
今年の全日本種目別は一味違った。

 

あん馬ではギリギリで予選を通過した杉野正尭(鹿屋体育大)がまさかの初優勝。平行棒では「名手の家系」と言われながら、これまで種目別のタイトルを取れなかったロンドン五輪、リオ五輪代表の田中佑典(コナミスポーツ)が芸術的とも言える実施で種目別初優勝を果たした。

しかしながら種目別選手権の真骨頂はここからだった。

 

内村航平
世界選手権で金メダルを取ったこともある内村のカッシーナ〜コールマン

 

最終種目の鉄棒は世界でも類を見ない大技の応酬となった。決勝進出者8人のうち実に5人が世界的にも珍しいはなれ技を繰り出したのである。

山本雅賢(徳洲会)がH難度のブレットシュナイダー(かかえ込みコバチ2回ひねり)、続く齋藤優佑(同)がブレットシュナイダーに加えてカッシーナ(G)〜コバチ(D)、コールマン(E)〜かかえ込みゲイロード2(D)の連続を行った。いずれも落下があったものの、観客席からは悲鳴にも近い大歓声が上がった。

 

内村航平
みながやるヤマワキだが内村のそれは美しい。

 

市瀬達貴(朝日生命)がシャハム(かかえ込みコバチ1回半ひねり;G)を成功させ、内村航平(リンガーハット)はこれまで試合で2〜3回しか見せたことのないカッシーナ〜コールマン、アドラーひねり(D)〜ゲイロード2(E)、ヤマワキ(D)を披露して15.750で優勝を果たした。

 

宮地秀享
宮地は男子最高難度の技、伸身ブレットシュナイダーを鮮やかにこなす。

 

そしてその内村を押しのけて最終演技者となった宮地秀享(茗渓クラブ)は、男子で最高のI難度として唯一認定されている伸身ブレットシュナイダーを皮切りに、ブレットシュナイダー、カッシーナ、コールマンを次々に成功させ15.250で2位となった。

伸身ブレットシュナイダーができる選手は世界でも数少ないが、宮地はこの技の開発者アンドレアス・ブレットシュナイダー(ドイツ)よりも鮮やかな伸身ブレットシュナイダーを行う。おそらく現時点で、宮地が世界一の使い手だろう。

 

宮地秀享
宮地はブレットシュナイダーの安定感もトップクラス

 

では世界最高の高難度の技を世界一華麗に行う宮地秀享が内村航平に勝てなかったのは何故だろうか。

鍵ははなれ技以外の部分にあった。

男子鉄棒では技が4つのカテゴリーに分類されている。一つははなれ技であり、もう一つは下り技である。下り技はもちろん1つしか出来ないが、ルール上、一つのカテゴリーからは最大で5つまでしか技が認められず、6つ以上やっても点数には加算されない。

残り2つは車輪系の技と、シュタルダーやアドラーなど鉄棒に近い位置で回転する技である。

そして下り技を含めて10技までがDスコアに加算される対象となっている(11技以上行った場合は難度が高い方から認定する)。

 

内村航平
内村の鉄棒にははなれ技以外にも高難度の技が詰め込まれている。

 

内村ははなれ技5つと下り技を除いた4つで以下の技を行っている。

アドラー1回ひねり逆手(E=0.5)

アドラーひねり(D=0.4)

シュタルダーとび1回半ひねり片大逆手(D=0.4)

ホップターン(車輪とび1回ひねり;C=0.3)

この4つの技のDスコアは合計1.6だ。

 

宮地秀享
宮地の下り技は伸身ムーンサルト(D) 伸身姿勢の表現に独特の美しさがある。

 

それに対して宮地の演技構成で認定されるのは以下の4つになる。

アドラーひねり(D=0.4)

エンドー(B=0.2)

車輪、逆手車輪などのA難度(=0.1)の技2つ

この4つの技のDスコアは合計0.8しかない。

 

宮地秀享と内村航平
今後は宮地と内村が鉄棒の王座を争うことが増えるだろう。

 

他にも下り技の難度の違いや、はなれ技を連続することで得られる加点(0.2)の違いもあるが、この4つの技で出る0.8の差は大きい。

鉄棒の種目別決勝に残るスペシャリトたちのほとんどが、この4つの部分もC、D、E難度で固めてくる。逆な言い方をすれば、同じはなれ技をやっていても、ここでDスコアを稼げるかどうかでスペリャリストとそれ以外の選手の差が出るのだ。

 

宮地秀享
宮地秀享の鉄棒はまだ伸びしろがある。

 

今回、世界選手権の代表候補に選ばれた宮地秀享は記者会見で、構成の中にA、B難度の技が入ってしまっているので、そこの難度を上げていきたいと語っている。

はなれ技以外の技に磨きがかかった時、真の鉄棒スペシャリスト宮地秀享が完成する。

 

Text : Masaru “TAROKEN” Maeda

About taroken

GymnasticsNews Radio Showのメインパーソナリティ、ライター。 学生時代に体操の選手の経験あり。体操ファン歴は中学生時代から。 静岡県体操協会男子3種審判資格あり。 ポッドキャスターとしては体操の他、Apple製品、IT関連、鉄道系の番組にも出演中。

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