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王者vsトップスペシャリスト 究極対談 世界を舞台に活躍するふたりの本音トーク 後編

 

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得意種目と好きな種目は違う!?
内村の好きな種目は実は…

年齢の壁、そしてケガを乗り越え、いよいよ東京五輪に向け最終調整に入っていこうとしている内村。重圧の中で戦っていながらその演技はいつも自由だ。10年近く日本のトップを走ってきた男がなぜこれほど自然体でいられるのか。体操を知る者同士が語るからこそ見えてきた内村の「遊ぶ力」。植松も知らなかった事実が明かされる。

 

植松 オレの現役時代は鉄棒のイメージが強いと思うし、好きな種目は鉄棒やったけど、実際に多くの結果を残したのは平行棒やったんよね。体操選手は好きな種目と得意種目に違いがある人が多いと思うんだけど、航平は一般的にオールラウンダーで得意な種目はゆかと鉄棒、みたいなイメージがあるけど、実際のところ、一番得意な種目ってなに?
内村 でも……、鉄棒は実際、得意じゃないんですよ、自分の中で。
植松 そうなんや。
内村 そうなるとやっぱりゆかなんじゃないですかね。ゆかです。得意です。
植松 得意種目ってことは、自分がやりたいことができるな、みたいな感じ。
内村 全部思った通りに動かせるのが、ゆかかなって。
植松 でもめっちゃ楽しいなと思う種目って違うやん。それは?
内村 それはあん馬です。
植松 あん馬!?
内村 あん馬です。楽しい。
植松 それは知らなかった。なんで?
内村 ラクじゃないですか、一番。ケガもしないし。楽しいのはあん馬ですね。
植松 それはいつから? だって大学生くらいのときまではさ、すごい嫌って。
内村 大学3、4年くらいですかね。あまり落ちなくなってきて、結構いろんな技に手を出せる余裕も出てきて。
植松 練習中にちょっと嫌やなって思ったときに、その楽しい種目のところに行っていろいろ試してみたりするんだよね(笑)。
内村 そうですね(笑)
植松 息抜きして次またいこう、みたいな。
内村 試合期じゃないときの冬季の練習とかで調子悪いなと思ったらひたすらあん馬をやっているときあったじゃないですか。
植松 やってる! ずーっとやってた。
内村 そういうことです(笑)。
植松 そういうことね! 初めて聞いたこれは。意外!
内村 楽しくなってくると、他(の種目)もやっていきたい! ってなって、他の種目も調子が上がってくるんです。結構あん馬で調子を上げるみたいなところがあって。
植松 それは全然知らなかったな。あん馬で調子を上げてもう一回他の種目に戻って、あん馬で調子上げて戻って。
内村 ふふふふ。
植松 しかも練習や試合前のアップの時も、あん馬の時間が多いもんな?
内村 多いですね。

プロ2年目となった2018年の内村。意外にも一番好きな種目はあん馬だという

 

植松 あん馬のアップをするとき、何を確認してるの? ウォーミングアップとかで一番意識していることとか。例えば旋回を絶対するけど、あの意味って?
内村 うーん。意味ですか?
植松 例えば押し上げだったらさ、筋肉の反応見たりとかできるやんか。ストレッチだったら今日はここが硬いから長めにしようとか。あのあん馬のアップの意味ってなんなのかなって。体感とか、腕の支えてる感じを確認している、とか。
内村 僕は片足旋回をいつもやるじゃないですか。あれは、ただ楽しいからなんですよ。
植松 はははは!
内村 いやほんとに(笑)。
植松 まじで!? それは知らなかったな。「なんでいつもやるんかなー?」って思ってた。
内村 旋回は体重の乗り方をその日の感じでやるっていう意味があるんですけど、片足旋回はまったく意味ないですね。
植松 まったく意味が……(笑)。
内村 なんでやるんだろう、でも。
植松 体操が遊びなんだろうな。ホンマ楽しくできてるから、毎日楽しくできるような状況を自分でいつもいろんなところで考えてる。
内村 うんうん。そうですね。なんかこうね、楽しみを。
植松 ちっちゃい楽しみをね(笑)
内村 結構、意味ないことはやってるんですよね。アップでも。
植松 他には何かある?
内村 鉄棒の試合前とかのアップで、1回ひねって降りたりするじゃないですか。
植松 あるある(笑)。
内村 あれも、ただの楽しみなんですよ。はははは!
植松 そうなんや(笑)。たしかに聞いたことなかった。いつもやってんなーって思って。そういう楽しみを見つけて、次にいくんだ。
内村 そうです。
植松 みんなは試合にいったら楽しみを見つけるより確認しなければいけないことのほうが多くなるのにもかかわらず、航平はそのときでも楽しめる状況、息抜きができる状況を自分で作ってるってことだね。
内村 そうですね。
植松 それってみんなはできへんからね。だけどやっぱりそれをできるっていうのは余裕もあるということ。しっかり自分の確認しないといけないポイントとかも見極めてるってことだもんな。
内村 そうですね。
植松 すごいわ。そうやって体操がめっちゃ好きでやってて、航平の中で体操を極めるってなに? どういったことが極みになるの?
内村 極める。なんでしょうねえ。でも結局は競技者なので、試合ですよね。年間5試合以上はある中で、その5試合全部、思ったとおりに同じようにできる。それが極みじゃないかな。練習とかはできて当たり前なので、一番見てもらわなきゃいけないところでバチッとできる。それがお客さんもそうだし、他の選手もそうだし、誰が見ても「すげーわ」っていうこと。
植松 体操をやっている人なら全員すげーわって思うな。
内村 かつ、自分もちゃんと満足できるということ。
植松 それが自分の中での体操の極みなんや。
内村 極みです。試合で、出す。
植松 常にね。
内村 常にです。

植松 だけど今まではほぼそれができてたよね。もしできてなかったとしたら17年の全日本選手権とかの2試合くらい?
内村 まあ17年はほぼほぼ、できてないですね(苦笑)。自分の中では。
植松 じゃあさ、体操の自分の中でのゴールって? どこにたどり着きたい、とかあるの?
内村 多分それを探してるんですよね、今。
植松 ずっと探してるんや。
内村 東京五輪に出て、最高の結果って多分、自分の可能性で言ったら団体金メダル、個人総合金メダル、鉄棒金メダルの3つだと思うんですけど、でもこれを成し遂げてもゴールじゃないと思うんですよ。自分の中では。
植松 自分のゴールは、近づいてきたらまた違うゴールを作ってしまうから、絶対自分のゴールが見つかることはないんや。
内村 ないですね。
植松 カッコよすぎるやろ!
内村 ははははは! 結果はもう、ある程度残した感じはあって。
植松 ある程度っていうか一生誰も越えられへんよ。
内村 だから(ゴールは)違うんじゃないですかね。もう、プロでやっているんで、体操の普及とかもしていきたいですし。
植松 次は体操のことを知ってもらって、やってくれる人が増えて、日本の体操が強くなってほしいということ。
内村 はい。
植松 オレも今そういうことをしたいから、今後協力して何かできたらいいよね。
内村 そうですね。そのときはよろしくお願いします!

ドーハ世界選手権決勝、予選でミスのでたあん馬をノーミスで通しきった
2018年のドーハ世界選手権の内村。予選でミスのでたあん馬を決勝ではノーミスで通しきりこの表情

 

 

Profile


植松鉱治●1986年8月30日生まれ。大阪府出身。清風高校、仙台大学を経て2009年コナミスポーツクラブへ進んだ。2010年世界体操選手権大会団体2位、13年全日本種目別鉄棒優勝、14年ドイツワールドカップシリーズ平行棒優勝などの成績を残し29歳で現役を引退。引退後は日本の体操普及のためJSC(日本スポーツ振興センター)から派遣され2年間アメリカで研修し、今年からは体操を教えながらアメリカの大学院進学を目指して語学を勉強している。

 

 

 

内村航平●1989年1月3日生まれ。長崎県出身。東洋高校、日本体育大学を経て2011年社会人クラブへ進んだ。オリンピック3大会(2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ)に出場し、リオデジャネイロ五輪では団体金メダルに貢献。個人総合2連覇含む7つのメダル(金メダル3、銀メダル4)を獲得している。世界体操競技選手権でも世界最多の個人総合6連覇を含む21個のメダル(金メダル10、銀メダル6、銅メダル5)を獲得。16年12月からは体操界では初となるプロ選手となった。

 

 

 

Text : Chiharu Abe

Photo :Shota Kitazawa

About chiharu

ちはる:スポーツライターとして野球雑誌を中心に活躍中。大学時代に体操競技に携わり、それ以来、”体操愛”に目覚める。独自の人脈で”体操”に関する様々な情報を収集する。

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