宮地の一歩

「嬉しさは全くないですね。悔しいというか自分に腹立たしいという気持ちしかないです。」

世界選手権の種目別決勝が終わった後のミックスゾーンで、宮地秀享(茗渓クラブ)は記者団にその気持ちをぶつけた。

 

ミックスゾーンで話す宮地秀享
世界選手権のミックスゾーンでその気持ちを吐露する宮地秀享

 

大舞台で世界で初めて伸身ブレットシュナイダー(I)を成功させ、この技に「MIYACHI」の名が付くことが確実視されるが、それよりも次のかかえ込みブレットシュナイダー(H)で落下し、金メダルを逃したことが大きかった。

「申し訳なさすぎて。何してきたんだという話ですね。」

 

宮地秀享の伸身ブレットシュナイダー
伸身ブレットシュナイダーは成功したものの、その直後にさらにかかえ込みブレットシュナイダーを実施するのが難しい。

 

日頃は茗渓クラブの一員として国内の大会に参加しているが、団体で大会に参加することはほとんどなく、演技でミスをしても自分の成績が下がるだけだ。しかし世界選手権では日本の代表として戦い、なおかつ金メダルの期待もかかっている。

 

宮地秀享
かかえ込みブレットシュナイダーではバーに近づきすぎて掴みきれず惜しくも落下。

 

自分がこれまでテレビを見て、日本代表選手達に期待していた気持ち。それをそのまま自分に投げかけ、それに応えられなかった不甲斐なさにただただ腹が立つ。

 

着地した後に天を仰いだ
着地した後に何か叫ぶかのように上を見上げた。

 

しかし世界選手権に出たことで収穫もあった。日本にはまだまだ自分のような鉄棒の強い選手がいるということを世界にアピールできた。世界選手権に臨むには、国内の大会以上に気持ちに余裕を持って演技できる状態に仕上げないといけないこともわかった。

思えばこの時が、宮地が新しい一歩を踏み出した瞬間だったのかもしれない。

 

宮地秀享選手
落下した後にやり直したかかえ込みブレットシュナイダーは成功させた。

 

3週間後の全日本シニア選手権。宮地はオールラウンダーとして6種目を演技し、鉄棒では伸身ブレットシュナイダーとかかえ込みブレットシュナイダーの両方を成功させた後に着地まで決めて見せた。

「ここで決めないと、それまでの選手なんだと思われる。」

世界選手権とはまた違ったプレッシャーがあったが、それを見事にはねのけた。

鉄棒以外の5種目の練習を始めたのは、世界選手権から帰った後だった。それまで鉄棒だけでいいと思っていた宮地を奮い立たせたのは、世界選手権で目の当たりにした個人総合の戦いだった。誰が勝つのかという鼓動の高鳴りと同時に、自分もこの場に立ちたいという欲求が湧き上がってきた。

 

宮地秀享
世界選手権で宮地の視界に入ったものは

 

元々、大学4年まではオールラウンダーであん馬、平行棒、鉄棒が得意だった。しかし大学4年の途中で両肘を故障、あん馬は今でも十分にできない。

しかし逆に考えれば、肘をしっかり直せばかつては鉄棒より得意だったあん馬が武器になる。また平行棒でも世界で戦える構成を組める。

内村航平(リンガーハット)のように6種目全部をトップクラスの演技にはできないが、今回の世界選手権個人総合で銅メダルを取った白井健三(日体大)のように、得意種目を軸にしたオールラウンダーなら自分も狙える。

 

宮地秀享と内村航平
宮地と内村が個人総合を争う日が来るのだろうか(写真は2017全日本種目別選手権)

 

鉄棒の強化は何か考えているか?という記者団の問いに宮地はこう応えた。

「はなれ技の連続を入れたいですね。あとD難度のコバチをGかHに変えたい。今ある技ではシャハム(かかえ込みコバチ1回半ひねり;G)を入れればDスコアが7点代中頃まで上がる。」

 

鉄棒に臨む宮地秀享
宮地は新たな気持ちで「体操」に取り組む。

 

宮地の踏み出した一歩は、宮地にとってだけでなく、日本体操界にとっても大きな一歩になるかもしれない。

 

Text : Masaru “TAROKEN” Maeda

About taroken

タロケン:GymnasticsNews Radio Showのメインパーソナリティ、ライター。 学生時代に体操の選手の経験あり。体操ファン歴は中学生時代から。 静岡県体操協会男子2種審判資格あり。 ポッドキャスターとしては体操の他、Apple製品、IT関連、鉄道系の番組にも出演中。HP:タロケン.link

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